物語雳
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·読了目安 14分脇役

竜は真実を語らなかった

自惚れ屋で見栄っ張りな竜と、大ボラ吹きで名高いミュンヒハウゼン男爵。晩餐の席で語られるのは、森で出会った二人が繰り広げた、荒唐無稽な自慢話合戦の一夜。真偽は最後まで明かされない。

一 晩餐のミュンヒハウゼン男爵

十一月も終わりに近いその晩、ボーデンヴェルダーの館には、いつになく多くの馬車が集まっていた。玄関先の松明が凍えた夜気に赤々と揺れ、従僕たちが息を白くしながら客人の外套を受け取っている。館の主であるミュンヒハウゼン男爵が、今宵もまた客を招いて晩餐をふるまうという知らせは、近隣の地主や士官たちのあいだで、ちょっとした催しごとに数えられていた。もっとも、誰もが料理や酒を目当てに訪れているわけではない。皆、本当のお目当てを胸の内に隠しながら、澄まし顔で挨拶を交わしていた。

広間の暖炉では薪が勢いよく爆ぜ、壁にずらりと並んだ鹿の角や猪の牙が、炎の照り返しを受けて鈍く光っていた。これらの獲物もまた、男爵の武勇伝の登場人物――もとい登場獣――であるらしく、客の誰かがふとその角を見上げるたび、給仕係の老僕は「あれには裏話がございましてね」と目配せをしてみせるのが恒例になっていた。長い食卓には銀の燭台が等間隔に並び、蠟燭の焔が、集まった客たちの顔を橙色に染めている。男爵はその主賓席に、いつものように悠然と腰を下ろしていた。年の頃は五十を越えているはずだが、その眼だけは少年のようにきらきらと輝き、右手には葡萄酒の杯、左手には胡桃を割るための小さな銀の鋏を弄びながら、誰かが口火を切るのを待っている風だった。

「男爵閣下、今宵もぜひ、あの月へ旅をされたお話を」

年配の地主がそう水を向けると、男爵は片眉を上げて鷹揚に笑った。

「あの話はもう三度は聞かせたはずだ、ヴァルターよ。月の住人たちが豆の蔓を伝って地上に降りてくる話も、大砲の弾に跨って敵陣を偵察した話も、そなたはもう諳んじられるほどだろう。今宵は、まだ誰にも語ったことのない話をしよう。なにしろ、この十月にようやく思い出したばかりの出来事でな。長らく、あまりに突飛すぎて、自分でも夢だったのではないかと疑っていたほどだ」

その言葉に、食卓の隅で肉を切り分けていた一人の若者が、ふと顔を上げた。今宵が初めての客であるテオドール・ラング大尉である。近隣の連隊に配属されたばかりの彼は、男爵の武勇伝の数々を耳にしてはいたが、その大半を眉唾ものと聞き流していた。今宵招かれたのも、上官に付き添っての義理の出席にすぎず、彼自身はむしろ、噂に名高いこの館の主を一目見て、その化けの皮を剝いでやろうという、いくぶん青臭い野心すら抱いていた。

「失礼ながら男爵閣下」テオドールは杯を置いて言った。「これまで伺った数々のご武勇、大砲の弾に乗って敵陣を偵察された話や、沼で自分の髪をつかんで馬もろとも脱出された話――どれも実に胸躍る筋立てでございました。しかし正直に申し上げれば、一言一句そのまま信じるには、いささか荒唐無稽が過ぎるように思われます」

広間にさざめきが走った。誰もが息を呑んで男爵の反応をうかがう。隣に座る夫人たちは扇の陰でくすくすと笑いをこらえ、給仕の老僕でさえ、皿を運ぶ手をふと止めて主人の顔色をうかがった。だが当の男爵は気分を害するどころか、むしろ嬉しそうに目を細めた。

「それは手厳しい。だが結構、実に結構だ、大尉。疑うことを知らぬ聴き手ほど、話し甲斐のないものはないからな」男爵は杯を掲げ、ゆっくりと一口含んでから続けた。「ならば今宵の話は、格別に念を入れて語るとしよう。何しろこれは、私がこの生涯で出会った中で、最も口の達者な相手についての話だ。人間ではない。竜だよ」

「竜、でございますか」

「そうとも。しかもただの竜ではない。私に負けず劣らず――いや、はっきり言えば私を上回るほどの、大変な法螺吹きの竜だった」

その言葉に、広間のあちこちで小さな笑いが起きた。男爵が己の話術を自ら「法螺」と呼ぶのは珍しいことではなかったが、その口から「自分よりも法螺の巧い相手」という言葉が出るのは、皆にとって初めて聞くことだった。テオドールも思わず身を乗り出した。窓の外では、いつの間にか降り始めた雪が、暗い庭先を音もなく白く染めていっている。男爵は鋏を置き、両手を組んで卓に肘をつくと、遠い記憶をたどるように目を細めた。その仕草だけで、広間の空気がすっと張り詰めるのを、誰もが感じ取った。

「あれは、私がまだ騎兵連隊にあった頃のことだ。とある遠征の途上、我が部隊は道に迷い、ボヘミアの深い森に踏み込んでしまった。地図には載っておらぬ土地でな、案内の羅針盤さえ、木々の発する妙な気に惑わされたものか、針が定まらず、くるくると回り続けるばかりだった――」

広間の喧騒が静まり、蠟燭の焔だけがかすかに揺れる中、男爵の物語が始まった。

二 森の竜、あるいはもう一人のホラ吹き

「霧の濃い森だった。木々は互いに肩を寄せ合うように高く伸び、月明かりさえ地面に届かぬほどでな。梟の声すら聞こえず、ただ自分の馬の蹄と鎧の擦れる音だけが、やけに大きく耳につく。部隊とはぐれた私は、馬を降りて手綱を引きながら、獣道とも呼べぬ茂みをかき分けて進んでいた。すると不意に、頭上の梢がざわめき、巨大な影が月を遮った」

男爵はそこで一拍置き、聴き手の顔を順に見渡した。誰もが固唾を呑んでいる。

「振り仰げば、そこにいたのは体長十間はあろうかという竜だった。鱗は暗緑色に鈍く光り、翼を広げれば教会の屋根さえ覆い隠すほど。首から角にかけては、どこで拾い集めたものか、金の輪や色硝子の飾りをじゃらじゃらと幾つも身につけていてな、いささか滑稽なほどに着飾った竜であった。私は咄嗟に剣の柄に手をかけたが、竜はこちらへ襲いかかる素振りも見せず、代わりに、実に芝居がかった調子でこう言い放ったのだ。『人間よ、命が惜しくば道を譲るがいい。我こそはこの森一帯を統べる者、かつて百の山を一息に飲み干し、七つの湖を涸らした偉大なる竜、グロリオーザ様であるぞ』とな」

「まさか、それを真に受けられたのですか」テオドールが口を挟んだ。

「無論、真に受けはしなかったとも。だが私は、こういう手合いの扱いには心得があった。相手が誇張で来るなら、こちらも誇張で応じるまでのこと。臆した素振りを見せれば、その瞬間に喰われるか、あるいは一晩中説教を聞かされる羽目になるかのどちらかだ。そこで私は剣から手を放し、むしろ胸を張ってこう返してやった。『これは異なことを仰る。この私はかつて大砲の弾に跨って敵陣を丸ごと偵察し、その帰り道に、貴殿の百の山などより大きな雷雲を、この二本の脚で踏みつぶしてきた者だ』とな」

広間にどっと笑いが起きた。誰の目にも、これから始まるのが単なる戦いの話ではなく、大言壮語の応酬であることが察せられたからだ。

「すると竜はどうしましたか」若い夫人の一人が尋ねた。

「一瞬、鼻先で鼻を鳴らしてな――竜にも鼻を鳴らすという芸当ができるとは、私もあの晩に初めて知ったのだが――それから、ひどく心外だという顔をして言い返してきたのだ。『雷雲程度で誇るとは片腹痛い。この私は先だって、嵐そのものを丸呑みにして、腹の中で三日三晩、雷鳴を轟かせて消化してやったわ』とな。私も負けじと、『それは奇遇だ、私はその嵐が去った後の虹を、両手で摘み取って自分の襟飾りにしたことがある』と応じてやった」

男爵はここで、あたかも本当にその虹の襟飾りを探すかのように、自分の襟元を軽く撫でてみせた。客たちの笑い声が、また一段と高くなる。

「竜はしばし黙り込んでな、どうやら次の一手を思案しておるようだった。それから、これ見よがしに片方の翼を広げ、月に透かすようにしながら言った。『人間よ、貴様の話には少々色気が足りぬ。私はかつて、東の果てで昇る太陽を、朝餉代わりに丸ごと一つ齧ったことがある。おかげでこの喉の奥には、いまだに小さな夜明けが燻っておるわ』。私も譲らず、『それは奇遇な。私は西の果てに沈む夕陽を、宴の灯り代わりに帽子の中へしまい込み、酒場が閉まるまで持ち歩いたことがある』と返した。竜はそれを聞くなり、感心とも呆れともつかぬ声を漏らし、初めて、笑いに似た唸り声を上げたのだ」

「そこで竜は矛先を変えてきてな、『では人間よ、貴様の血筋について聞かせてもらおうか。よもや、その程度の法螺しか語れぬ家系ではあるまいな』と、いささか意地の悪い問いを寄越してきた。無論、私も黙ってはおらぬ。『我が祖先は、かつて大洪水の折、方舟に乗り遅れた動物たちを両手いっぱいに抱えて、泳いで岸まで送り届けたお人でな。以来、我が一族には水に溺れる者が一人もおらぬのだ』と語ってやった。すると竜は、これはしたりとばかりに身を乗り出し、『それしきの功績、私の先祖に比べれば児戯に等しいわ。我が始祖は、まだ大地に山という山がなかった時分、あちこちの海の底を引っ搔き回して、盛り上がった土を積み上げ、山脈というものを初めてこしらえたお方だ。おかげで今も、山の稜線には竜の爪痕がくっきりと残っておるのだぞ』と胸を張った。私はすかさず、『では今度、その山に登った折には、ぜひその爪痕とやらを拝見させてもらおう』と応じ、竜は『いくらでも来るがいい、ただし土産の一つも持参せぬ客人は歓迎せぬぞ』と、まんざらでもなさそうに笑った」

「敵対する気配は、まったく失われてしまったのですか」テオドールがなおも問う。彼の声には、いくぶんの呆れと、それに劣らぬ好奇心とが同居していた。

「失われたとも。何しろ、あの竜が本当に欲していたのは、私の肉でも財宝でもなく、ただ一つ、己の法螺話に真剣に耳を傾け、それに見合う法螺で応じてくれる相手だったのだからな。森の獣どもは竜の自慢話を右から左に聞き流すばかりで、退屈しのぎにもならなかったのだろう。狼は退屈そうに欠伸をし、梟は眠たげに瞬きをするばかり。竜はよほど不満を溜めていたと見えて、私にこう言った。『人間よ、貴様はなかなか話の分かる奴だ。この森で最後に見つけた美酒――先の嵐で流れ着いた難破船から拾った古酒があるのだが、付き合わぬか』とな。かくして私は竜の背に招かれ、その岩棚で、瓶の栓を抜くこととなった」

「男爵閣下が、竜の酒盛りに」誰かが感嘆の声を漏らした。

「左様。竜は器用に、というよりむしろ強引に爪先で瓶の口を弾き飛ばし、私に木の杯を差し出した。琥珀色の酒は、潮の香りと古木の香りが入り混じった不思議な味がしてな。夜が更けるにつれ、我々の話はますます大きくなっていった。竜は、かつて自分の吐く炎で夜空の星々に灯をともして回ったのだと語り、私は、自分がかつて袖の中に嵐雲を隠し持ち、退屈な夜会の余興に取り出して見せたことがあると語った。竜は負けじと、自分の鱗の一枚一枚は、かつて倒した巨人たちの甲冑を溶かして鍛え直したものだと言い、私は、自分の長靴の底には、渡った海のことごとくの潮位を刻んだ目盛りがついていると言い返した。互いに一歩も引かず、盃を重ねるごとに話は膨らみ、ついには、どちらの話が真実で、どちらが法螺なのか、語っている当人たちにさえ判然としなくなっていったのだ」

窓の外の雪はいよいよ勢いを増し、暖炉の炎が時折ぱちりと爆ぜて、影絵のように揺れる二人――男爵と、若い夫人たち――の顔を照らしていた。テオドールだけが、腕を組んだまま、まだどこか納得のいかない表情を浮かべている。

「閣下、失礼ながら伺いますが」テオドールが再び口を挟んだ。「その竜は、なにゆえそこまで法螺話に固執したのでしょうか。人を襲うでもなく、財宝を求めるでもなく、ただひたすら誇張を語り合うことに、竜にとって何の得があったというのです」

男爵はにやりと笑い、杯の縁を指でなぞった。

「良い問いだ、大尉。あの晩、竜自身がこう漏らしたのを覚えている。『人間よ、この森で百年、二百年と生きておると、恐ろしいと言われることにも、偉大だと崇められることにも、いい加減飽きが来るものよ。だが誰かと軽口を叩き合い、互いにこれでもかと大口を叩き、しまいには自分でも訳が分からなくなって笑い転げる――そういう夜だけは、何百年生きても飽きぬものだ』とな。思うに、あの竜が本当に欲していたのは、崇められることでも恐れられることでもなく、対等に軽口を叩き合える相手だったのだろう。それは、この私にもいくらか身に覚えのある心持ちでな」

三 咆哮する自慢合戦、あるいは嵐の夜

「そうして夜も深まった頃、竜が不意に身を起こし、こう言い出したのだ。『人間よ、貴様の話はなかなかに愉快だが、所詮は言葉の綾に過ぎまい。この私は、言葉だけでなく、実際にこの身をもって証を立てられるのだぞ』とな。竜はそう言うが早いか、翼を大きく広げ、月に向かって咆哮した。すると、その咆哮に呼応するかのように、遠くの空に稲光が走り、たちまち嵐雲が森の上空を覆い始めたのだ」

広間の空気が、ふっと張り詰めた。

「まさか、その嵐は偶然だったのでは」テオドールが鋭く問う。ここに至ってようやく、彼は男爵の話の綻びを見つけたとばかりに身を乗り出していた。

「大尉、それはもっともな疑いだ。私自身、あの瞬間、竜の咆哮と嵐の到来が本当に結びついているのか、それとも折悪しく嵐が近づいていただけなのか、判じかねていた。竜に問い質してみようかとも思ったが、あいにく相手は得意満面で、そんな野暮な問いを差し挟む隙を与えてはくれなかった。竜はそんな私の顔色を読んだのだろう、実に得意げにこう続けた。『どうだ、疑うなら試すがいい。この背に乗って、この嵐の只中を突っ切ってみせようではないか』とな。売られた喧嘩は買わねばならぬのが、この私の性分だ。それに、酔いも手伝ってか、あの瞬間の私は、たとえ竜の背から振り落とされて谷底に落ちようとも構わぬという、いささか無謀な気概に満ちていた。私は迷わず竜の背に飛び乗った」

男爵はそこで杯を高く掲げ、まるで本当に嵐の中にいるかのように、声を張り上げた。

「風が唸り、雷が幾筋も夜空を裂き、雨粒は礫のように顔を打った。竜は翼を目一杯に広げ、雲の底を突き破るようにして上昇していく。私は手綱代わりに角をつかみ、飾りの金輪が耳元でじゃらじゃらと鳴るのを聞きながら、『これしきの嵐、我が輩の乗った大砲の弾に比べれば揺りかごも同然よ』と叫んでやった。すると竜も負けじと、『黙って乗っていろ、人間よ。この程度の雷鳴、私が生まれた日に鳴った産声にも及ばぬわ』と吼え返してきおった。稲妻が竜の鱗を青白く照らすたび、その横顔には、恐ろしさよりもむしろ、無邪気な得意げな笑みが浮かんでいるように見えた」

「それで、どちらが勝ったのですか」若い夫人の一人が待ちきれぬ様子で尋ねた。

男爵はそこで、初めて言葉を切った。しばしの沈黙が広間に落ちる。暖炉の薪がぱちりと爆ぜる音だけが響いた。

「――勝敗などつかなかった、というのが正直なところだ。嵐の真ん中で、竜は一際大きな雷鳴に負けじと吼え、私は負けじと大声で歌まで歌い出す始末でな。傍から見れば、さぞ滑稽な光景だったろう。嵐を抜けた頃には、竜も私も、互いの自慢話にすっかり息が上がってしまってな。気づけば、竜は岩棚に降り立つなり、腹を抱えて、いや、竜に腹があるのかどうか知らぬが、とにかく身をよじって笑い転げておった。私自身、いつの間にか声を上げて笑っていた。どちらの話が本当で、どちらが法螺だったのか、そんなことはもうどうでもよくなっていたのだ。ただ、あれほど心ゆくまで大口を叩き合った夜は、後にも先にもなかった」

そこで男爵は言葉を継いだ。「もっとも、嵐を抜けた直後には、一悶着あったのも事実だ。竜が『どうだ、これで貴様も私の力を疑うまい』と勝ち誇ったように言うのでな、私も酔いに任せて『いや、まだ足りぬ。この程度の芸当、我が家の猟犬でもやってのけるわ』と、つい憎まれ口を叩いてしまったのだ。竜はむっとした顔をして、今度は本気で私を振り落とそうと、宙で三回転もの宙返りをしてみせた。私は角にしがみつきながら悲鳴とも笑い声ともつかぬ声を上げ、竜はそんな私の狼狽ぶりを見て、ついに我慢できずに大笑いを始めてしまってな。宙返りの途中で笑い出す竜というのも、なかなか見られる光景ではないぞ」

その情景を思い浮かべたのだろう、広間の客たちからも笑いが漏れた。テオドールもまた、しばし言葉を失っていた。彼が身構えていたのは、竜を退治するか、あるいは竜に一杯食わされるか、そのどちらかの結末だった。だが男爵の話は、そのどちらでもない場所へと着地しようとしている。

「では男爵閣下」テオドールはようやく口を開いた。「結局のところ、閣下は竜を言い負かされたのですか。それとも、竜のほうが閣下を担いだだけなのでしょうか」

男爵はにやりと笑った。

「それは私にもわからぬよ、大尉。おそらく、竜自身にもわかっておるまい。あの晩、我々のどちらも、相手を打ち負かそうとはしていなかったのだからな。ただ、互いに負けじと大口を叩き続けることそのものが、この上ない愉しみだったのだ。夜明けが近づく頃、竜は名残惜しそうに私を岩棚から見送りながら、こう言った。『人間よ、また会うことがあれば、その時はもっと大きな法螺を用意しておくがいい。私も負けじと、もっと途方もない話をひねり出しておこう』とな。私は馬に跨りながら、『望むところだ』とだけ答えて、朝靄の立ち込める森を後にしたのだ」

四 哄笑の果てに

その答えに、広間はどっと沸いた。誰もが手を叩き、杯を打ち鳴らし、口々に「見事な話だ」「今宵一番の大ボラだ」と囃し立てる。年配の地主ヴァルターなどは、目尻に涙を浮かべながら「もう十分だ、これ以上笑ったら肋骨が持たん」と両手を振っていた。テオドールもまた、呆れたような、それでいてどこか清々しいような複雑な表情を浮かべながら、思わず笑みをこぼしていた。

「男爵閣下、正直に申し上げます」テオドールは杯を掲げて言った。「私は今宵、閣下の話の矛盾を一つでも見つけてやろうと意気込んでおりました。しかし、どうやらそれは無粋というものだったようです。真実かどうかを詮索するよりも、この話を楽しむべきだったのですね」

「よくぞ気づいたな、大尉」男爵は満足げに頷いた。「もっとも、私はまだ何一つ、噓をついたつもりはないのだがね」

その一言に、広間はまたひとしきり笑いに包まれた。誰かが「では、あの襟飾りの虹はどこにしまわれたのです」と茶化せば、男爵は「先だっての洗濯で色褪せてしまってな、実に惜しいことをした」と真顔で応じ、さらなる笑いを誘った。夜も更け、客たちはそれぞれの馬車へと戻り始める。テオドールも外套を羽織りながら、名残惜しそうに男爵に一礼した。

「また来る機会があれば、続きをお聞かせ願えますか。あの竜が、その後どうなったのか」

「もちろんだとも。何しろ、あの竜とはあれ以来、時折、夜更けに窓の外を通り過ぎる影で挨拶を交わす仲でな」

男爵はそう言って、窓の外の暗闇に目をやった。雪はいつしか止み、雲間から覗いた月が、庭の木立を淡く照らしている。その梢の向こうを、一瞬、何か大きな翼のようなものがよぎった――ように、テオドールには見えた。彼は思わず窓に駆け寄ったが、瞬きをする間に、それはもう闇に溶けて消えていた。見間違いだったのか、それとも。振り返ると、男爵はただ悠然と笑みを浮かべているばかりで、種明かしをする気配はまるでなかった。

馬車の轍が雪道に新しい筋を刻みながら遠ざかっていく中、館の窓には、まだ一つだけ蠟燭の灯りが揺れていた。客が皆去った後もなお、ミュンヒハウゼン男爵は一人、暖炉の前で杯を傾けながら、静かに、あの晩の竜との酒盛りを思い出して微笑んでいた。従僕が下がってよいかと尋ねると、男爵は「もう少し起きていよう。誰かが窓辺を通りかかるやもしれぬのでな」とだけ答え、それきり黙り込んでしまった。

それが本当にあったことなのか、それとも彼一流の壮大な創作なのか――その答えを知る者は、おそらくこの世に、竜と男爵、その二人しかいないのだろう。そして二人とも、その答えを誰にも明かすつもりはなさそうだった。ただ確かなことが一つあるとすれば、それは、あの夜のボーデンヴェルダーの広間に集った誰もが、真偽の定かならぬ一夜の法螺話に、心の底から笑い転げたということだけである。

本作はルドルフ・エーリヒ・ラスペ(Rudolf Erich Raspe)の『The Surprising Adventures of Baron Munchausen(ほら吹き男爵の冒険)』を参考にした作品です。原典