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老王が引き延ばす譲位のため、三人の王子に代わる代わる難題を課す。末の王子カイルは霧の奥の白霞城で姿なき手にもてなされ、一頭の白猫と心を通わせていくが、その手の正体は、太古に姫と共に呪われ、無数の手に姿を変えられた一頭の竜だった。
川辺の宿で一夜を共にした無名の画家に、旅の文学青年が語って聞かせたのは、深い縁も言葉も交わさぬまま心に棲みついた名もなき竜たちの手記だった。数ヶ月後、机に向かう彼が末尾に書き加えたのは、宿の土間でうたた寝していた仔竜の名残だった。
旱魃に苦しむ国を救うため、老いた龍神は「玉藻の前」として宮中に上がり、密かに治水と祈雨を進言する。だが異能を危ぶんだ陰陽師の卜占により妖狐と断じられ、真意を語ることも許されぬまま追討の身となる。
旱魃に苦しむ国を救うため、老いた龍神は寒村の娘・藻の姿を借りて宮中に上がり、玉藻の前として上皇に仕える。密かな治水の策も、陰陽師の卜占によって「人ならぬ者」の証にされ、彼女は身の潔白を語らぬまま、那須野で自ら凶兆を引き受け石に変わる。
荒くれ鉱夫だけのモス・ガルチに、瀕死の母竜が卵を託して息絶える。粗野な男たちが交代で世話をするうち、殺伐としたキャンプは次第に穏やかさを取り戻す。だがある晩の鉄砲水が、幼竜を抱いた一人の男を呑み込んでいく。
森辺の集落で祖母と暮らす少女モイラは、銀の鱗を持つ幻の竜を探す旅の採集家と出会う。謝礼と淡い憧れに揺れながら、夜明けの巨木の上でただ一度竜と目を合わせた少女が選んだのは、沈黙だった。
心臓を患う人妻は、山道で隊商が竜に襲われ夫が落命したと聞かされる。喪失の底から、遠く谷を渡る竜の咆哮が、まるで己の自由を告げる声のように響く。だが生きて帰った夫を前に、同じ咆哮はもう自由の声には聞こえなかった。
橋を焼こうとして捕らえられた郷士は、絞首の縄が落ちる刹那、銃弾も砲火もその翼で防ぎ、故郷まで運んでくれる巨竜の幻を見る。妻へ手を伸ばした瞬間、光景は消え去る――竜は、物語のどこにも実在しなかった。
橋を落とそうとして囚われた男は、絞首台の上で見知らぬ竜の幻に救われ、家路を飛ぶ。しかし妻に手を伸ばした瞬間、光景は消え、彼はまだ橋の上に吊るされたままだったと知れる。
嗅ぎ煙草の悪戯でコウノトリに変じたカリフ・シャジットと宰相マンスールは、沼地で「怪物」と恐れられる竜と出会う。求婚を拒んで竜に堕とされた王女ルーザこそが、宮廷を狙う魔術師カシュヌールの陰謀を誰より見抜いていた――間抜けな二羽を導いたのは、怪物と呼ばれた竜の知略だった。
柵の中の穏やかな暮らしに飽いた仔山羊ブランケットは、灰色岩山の頂を目指して駆け上がる。迎えるのは、迷い込んだ者を掟のままに喰らう古竜。一夜の死闘の果てに竜が示したのは、嘲りでも憐れみでもない、対等な挑戦者への静かな敬意だった。
良家に嫁いだお関は、夫の冷淡さに耐えかね実家へ戻るが、父の涙に説き伏せられて婿家へ戻る夜、拾った俥の車夫は幼馴染みの録之助だった。誓いを果たせぬまま片翼のみを宿す竜として生きる彼は、恨み言ひとつ口にせず、ただ静かに彼女を送り届ける――満ちることのない十三夜の無常譚。
建国の代から城と盟約を結んできた竜は、代替わりのうちに宮廷の記録から忘れ去られ、王女誕生の祝宴にも招かれなかった。蔑ろにされた竜は温情を挟まず百年の眠りの呪いをかける。解いたのは王子の口づけでなく、盟約を思い出し詫びた書庫番の末裔だった。
隣国との戦にようやく平穏が戻った王国で、危うきを見る目を持つ竜は、王に立てさせた誓いの重みをその身に負っていた。二人の王子の死、東方の女王、そして違えられた誓い――竜が下した裁きは、復讐ではなく、己の掟を貫く忠義のかたちだった。
青い鳥を探す旅に出た木こりの兄妹に、暖炉の残り火から目覚めた仔竜が同行する。暴走すれば一行を焼き尽くしかねない危うさを抱えながら、竜は誰よりも忠実に二人を守り抜く。
シャーウッドの森に金貨を運ぶ「怪物」の噂が広がる。真相は、ロビン・フッドの一味と結び貧しい村々の戸口に金貨を届ける竜だった。私財のため竜を独占しようとした代官の企みを、義賊と竜が結束して暴く、痛快な森の伝説。
静養のため川を遡る舟旅に出た三人の病み上がり気取りの友人たちは、犬の代わりに川辺で拾った皮肉屋の老竜「灰」を連れていく。缶詰との死闘、迷路での迷走、嵐の夜――灰は最後まで手を貸さず論評に徹するが、旅の終わりに漏らした本音が、この道連れの正体を静かに明かす。
無実の罪で村を追われた機織りの重蔵は、金貨の山に棲む名もなき竜だけを友に、夜ごと硬貨を数えて生きていた。その金が消えた大晦日、雪の中に迷い込んだ幼子を拾ったとき、竜の気配もまた戻ってくる――正体を明かさぬまま、執着の相手を金から命へと静かに移し替えて。
ペテルブルクの運河に眠る竜は、白夜の光を貸しては引く。孤独な夢想家に束の間の恋と、悲しみに独り向き合う静かな暗闇を贈った、姿を見せぬ竜の物語。
ゴブリンが地の底で憎しみだけを教え込み、地上への侵攻兵器として育てていた幼竜。鉱夫の少年カーディーは力でも歌でもなく、根気強い言葉だけでその心を少しずつ開いていく。王女誘拐の夜、竜は誰の命令でもなく自らの意志で牙を剥く相手を選んだ。
人々を癒す蘭方医・桐生玄晧は、血に潜む竜性を薬で切り離そうとするうち、夜ごと獰猛な黒竜「叢雲」に変じるようになる。制御は薬なしでも失われはじめ、恩人を手にかけた玄晧は、竜の姿のまま己に刃を向ける。友の手に残された手記だけが、真実を語る。
自惚れ屋で見栄っ張りな竜と、大ボラ吹きで名高いミュンヒハウゼン男爵。晩餐の席で語られるのは、森で出会った二人が繰り広げた、荒唐無稽な自慢話合戦の一夜。真偽は最後まで明かされない。
深森の坑道奥に眠る竜がいた。屋敷を占拠したイタチたちの酒宴が境界を踏み荒らしたとき、竜が牙を剥いたのは誰かを守るためではなく、己の眠りを汚された怒りゆえだった。ケネス・グレーアムを翻案した皮肉な脇役譚。
独りで栄光を摑もうとする剣士が都で得た三人の朋輩。彼らの背中合わせにのみ応える守護竜は、私怨に駆られた仇討ちの前で沈黙する。結束は、独りの剣では灯らない。
誰にも顧みられぬ石の守り竜を、見返りを求めず磨き続けた孤独な石工。損得のない献身が積み重なったある夜、忘れられた神霊が竜に命を吹き込む――対等な絆の物語として紡ぐ、ピグマリオン神話の翻案。
生き写しの異国貴族エドヴァルトは、毒に倒れた王の身代わりとして戴冠の座に立つ。地下に眠る戴冠の竜アルガディンは偽りを見抜きながら沈黙し、正統性とは血ではなく王冠を担う覚悟だと悟らせる。
嵐の夜、アヒルの巣に紛れ込んだ一つの卵。孵ったのは灰褐色の鱗を持つ仔竜だった。化け物と呼ばれ追われ続けた彼が、雪解けの湖でついに見出したのは、失われた故郷だった。
声を持たぬ屋敷の下男が、増水の川辺で拾った衰弱した幼竜とだけ心を通わせる。だが夜ごとの唸り声が女主人の逆鱗に触れ、彼は己の手で最後の別れを選ぶ――喪失の果てに、初めて自らの意志で歩き出す静かな反逆の物語。
老いることを許されぬ竜が、常若島の岩陰から迷い子たちの旅立ちを見送り続けた。家路を選んだ少女の船出に、竜は自分には決して許されない「変わっていくこと」を託す。
大聖堂の鐘楼に人知れず匿われて育った竜カリヨンは、灯火祭で見世物にされた夜、旅の踊り子リゼットから対等な優しさで水を与えられる。彼女が濡れ衣で火刑に処されようとしたとき、竜は正体を明かして鐘楼から舞い降りる。
遠島の罪人を運ぶ渡し舟を、代々曳いてきた老竜がいた。裁く力を持ちながら誰の罪も裁かず、ただ聞き届けるだけの渡し守。二百文に満ち足りて微笑む罪人を乗せた夜、竜は初めて沈黙をわずかに破る――赦しでも断罪でもない何かを映す、内省的な人情譚。
孤児の少女アンの空想が生んだ小さな竜は、彼女がひとりで抱えきれない感情にだけ寄り添い、心の友や絆を得て成熟していくにつれ、姿を見せる頻度を減らしていく。L・M・モンゴメリを翻案した静かな成長譚。
レイヴンズコートの誇り高き竜は、誰にも心を開かないと近隣に知られていた。舞踏会での不快な出会いから当主エドマンドに偏見を募らせるマリアンは、やがて手紙と一つの噂の真相を通じて、竜と自分自身の思い込みに向き合うことになる。
航海先の孤島で仲間に置き去りにされた廻船商人・佐吉は、断崖に囲まれた鱗谷の底で、翼を傷めた幼竜と出会う。谷に伝わる「怪鳥の巣」伝説の正体を知った佐吉は、富への渇望と芽生えた良心との間で引き裂かれていく。
貧しい牧師館の屋根裏に幾世代も棲む竜は、死の近づく者にだけ静かに寄り添う。病弱な三女ベスを二度にわたって見送りへと導いた竜は、姿を消した後も暖炉の残り火として家に残り続ける。ルイーザ・メイ・オルコット『若草物語』を翻案した静かな姉妹の物語。
海の青をどうしても描けない少年は、同級生ジムの幼竜が落とす鱗の粉だけが持つ「本物の海の青」に憧れ、ある日その小袋を盗んでしまう。露見し竜舎へ連れて行かれた少年を待っていたのは、罰ではなく静かな赦しだった。
貧しい夫婦がひそかに育てる、翼の育たない幼竜。妻は自分の髪を売って竜のための薬餌を求め、夫は祖父の懐中時計を手放して竜の翼を目覚めさせる首飾りを買う。気づかれぬまま重なった二つの犠牲は、竜を通してひとつの奇跡になる。O・ヘンリー『賢者の贈り物』の翻案。
峠を代々見張る二匹の竜、力ずくの疾風と穏やかな陽炎は、旅人の心を開かせる賭けで幾百年も張り合ってきた。頑なに外套を手放さない旅商人を巡る勝負は、思わぬ崩落を招き、力と優しさの意味を静かに問い直す。
初めて船を任されたばかりの若い船長は、嵐の去った夜、舷側にすがる竜を見つけて自室に匿う。名乗らぬまま「影」と呼び合ううちに、船長は誰にも語れない不安を分かち合い、初めて船を掌握する手ごたえを得る。
薄給の写字生が理不尽な仕打ちの末に世を去った夜、その無念は言葉を持たぬ小さな竜となって氷の都を彷徨いはじめる。役人の外套を剥ぎ続けた竜が最後に望んだのは、己を切り捨てた男へ向ける、ただ一度のまなざしだけだった。
天上の花園を守る古竜は、かつて強欲から村を焼き奈落に堕ちた我が子を、幾百年経てもなお忘れずにいる。生前ただ一度だけ虫の命を見逃した記憶を頼りに、古竜は己の銀髭を一本、奈落へと垂らす。
傷ついた卵から老夫婦に拾われた仔竜は、恩返しに金塊を掘り当てるが、強欲な隣人に殺されてしまう。だが仔竜の温もりは亡骸から巨木へ、巨木から黄金の臼へ、臼の灰から満開の花へと三度姿を変え、恩を返し続ける。
長年「人喰いの怪物」として恐れられ、狩られるだけだった老竜は、正気を失った老郷士から大真面目な一騎打ちを申し込まれる。滑稽な儀式と信じたそれは、老竜にとって初めて向けられた敬意だった。老郷士が本物の刃に襲われたとき、竜は妄想の外で、現実の忠義を返す。セルバンテス『ドン・キホーテ』を翻案した物語。
真実の愛を伝説でしか知らぬ孤独な竜が、麓の学生の嘆きを聞き、己の心臓を氷結の棘に捧げて紅玉を生む。だがその贈り物は、宝石の前に一顧だにされず川へ捨てられる。
毎年山から鉱石と香草を担いで下りてくる若い竜は、商家の幼い娘に懐かれ、遠い巣に残した我が子を思い出しながらその時間だけを心の支えにしていた。だがある諍いの末に幽閉され、幾年もの時を経て解き放たれた日、娘はもう彼を覚えていなかった。
許されぬ恋を抱く娘ミナと恋人トウジ、彼女の許婚サガミ、サガミを慕うスズ。四人が迷い込んだ夜の森で、悪戯好きの仔竜が撒いた「仲直りの蜜」が恋心をかき乱す。危機の刻、竜はそっと翼を広げる。
鐘楼に眠る竜は、街の誓いが破られるたびに石と化していく。密告政治に蝕まれた都市国家で、友を人質に三日の猶予を得た牧人が濁流と裏切りの影に挑むとき、石化しかけた竜の身体にかすかな亀裂の音が走る。太宰治『走れメロス』の翻案。
神経療養で沼地の館を訪れた青年は、姪の語る「三年前、竜に呑まれた三人」の悲話を真に受ける。夕闇に現れた人影と竜影に絶叫し逃げ出す彼を待つのは、拍子抜けするほど平和な真相だった。
銀嶺の郷に生まれながら、輝く鱗を持たぬただ一匹の竜・月竜。同族から名を奪われ森へ追われた彼は、いっそ天に受け入れられたいと太陽と星々に舞い上がるが、いずこにも拒まれる。それでも羽ばたきをやめぬ彼を待つ、静かな結末。
涸れ野の岩陰に眠る竜は、引き取られた孤児の少年になつき、二人は一心同体に荒野を駆けて育つ。だが想い人に裏切られた少年の心が恨みに染まると、竜の忠誠は世代を超えて暴れ狂う執念に変わっていく。
陽炎国の聖石・黄天石には、遠い聖地を守る竜の力の欠片が宿っていた。帝国将校に奪われた石は姪リゼットへ贈られるが、誕生日の夜に忽然と消える。竜は姿を見せぬまま、不運と悪夢の噂となって石を追い続ける。
両親を亡くした少女が引き取られた館には、十年も鍵をかけられた庭があった。荒れた蔦の奥で仮死のように眠る小さな竜は、庭が緑を取り戻す歩みと同じ速さで、ゆっくりとその瞼を開いていく。
凶作の晩、羊飼いの祝宴に迷い込んだ旅人の正体は、飢えて羊を喰らい死刑を宣告された若い竜だった。後から訪れた竜狩りの執行人は、隣に座る相手が己の獲物とも知らず杯を交わす。トマス・ハーディ『三人の見知らぬ男』の翻案。
銀山の坑道を広げ続ける町にネズミの大群が溢れ、まだらの外套の旅人が退治を買って出る。約束を破った町から子どもたちが消えた夜、足の悪い少年だけが山の扉の前に取り残される。
嵐で船を失った漂流者が流れ着いた無人島には、翼を折られ飛べぬ竜がすでに棲んでいた。言葉を持たぬ二人は獲物を分け合い、危険を身振りで教え合ううちに、上下のない対等な絆を結んでいく。ダニエル・デフォー『ロビンソン・クルーソー』の翻案。
小さきものを弄んだ罰で掌ほどに縮められた悪童・千弥は、雁の群れにさらわれ空の回廊を旅することになる。幾千年にわたり渡りの道を守り続けてきた老竜・渡守との出会いが、傲慢だった少年の心に小さきものへの慈しみを芽生えさせていく成長の物語。
家庭教師イレーヌは、フォンレーヴ館の主エヴラールに惹かれてゆく。だが婚礼の日、一族が代々隠してきた誓約――屋根裏に潜む竜の存在が教会で暴かれ、館は炎に包まれる。
鉾ヶ岳の封印が破れ、地の底に眠っていた古竜の群れが阿久多の里を焼き尽くす。書役の伊織は妻とはぐれ、老神官と猟師とともに灰都を目指すが、迎えた最後の夜、竜たちは人の手を借りず、次々と斃れていく。それは勝利ではなく、あまりに小さな理由による、圧倒的な者の終焉だった。
滅びた一族の最後の生き残りから杯を託され、三百年にわたり主なき財宝を守り続けた竜。奴隷の窃盗をきっかけに、老王ベーオウルフとの一騎討ちの果て、番人としての生涯を静かに終える。
卵の頃から誰にも明かさず育てた竜を、姫は闘技場の奥に囲われたまま愛し続けてきた。恋人が裁きにかけられた日、姫は竜の扉か花嫁の扉か、ただ一つの合図で示さねばならない。フランク・R・ストックトン『貴婦人か虎か』を翻案した、答えなき裁きの物語。
神経を病んだ客をからかうため、姪は開けっ放しの窓にまつわる作り話を語る――沼で消息を絶った伯父たちを、若い竜だけが夕暮れに待ち続けている、と。だが本当に窓辺に現れたのは、ただ帰りを喜ぶ無邪気な竜だった。サキ『開いた窓』を翻案した勘違いコメディ。
故郷を逐われた若い竜は、翡翠京の帳の奥に隠れ棲み、恐れられることで身を守りながら『大君』を演じ続けた。西の影狩りを討ち果たした少女澪たちの前で帳は破れ、竜は望郷と孤独に耐えかねて、ついに仮面を脱ぎ捨てる。
死火山の火口から地底世界へ挑む地質学者と甥、案内人。太古の孤独の中で生き続ける名もなき竜は、正体を明かさぬまま三人を守り抜き、脱出の代償に自ら坑道を閉ざして、誰にも知られぬ孤独へと還っていく。
貧しい漁師・惣吉は、落ちぶれた廻船問屋の隠居から、どんな願いも叶える小竜の封じられた瓶を安く買い取る。ただし手放すときは買値より安い正貨で売らねば、竜は持ち主の魂を代わりに引き受けるという。値は下がり続け、ついに最小の貨幣に達したとき、妻お苗は夫に隠れて瓶を買い取ろうとする。
地味な鱗の行商竜クスミが百年に一度の神器・蒼竜玉を運ぶ道中、守護の使者を名乗る同行者と、暴走竜を追う竜狩人が現れる。仕組まれた失策の跡をたどる先に見えたのは、地味な竜こそが仕掛けた罠だった。
何にでも賭ける山師ジェドが育て上げた無敗の跳竜スパークは、名も知れぬ旅人の仕掛けた小さな罠であっけなく敗れる。鉱山町の酒場で語られる、人の欲と滑稽さを映すほら話仕立てのユーモア短編。
兄弟子を差し置いて五重塔の独り請けを願い出た「のろま」の大工は、心のこもらぬ建物だけを嵐で見定める竜の裁定に、己の身をもって挑む。幸田露伴『五重塔』を翻案した、職人の矜持と自然への畏怖の物語。
幾世代もの間、剣を持つ若者たちを傷つけず退けてきた森の竜は、涸れかけた泉と最後の卵を守るためだけに化け物であり続けていた。泉番の娘が知った真実は、弟が剣を振るった夜、竜が自ら選び取った最期の中にあった。
深山の一軒家で旅の僧が出会った女の正体は、人の心根を鏡のように映し、邪心を抱く者だけを獣に変える竜だった。僧は真実を知らぬまま山を下りるが、その静かな慈悲と孤独の気配だけを胸に刻み続ける。
宮廷の寵愛は、竹林に棲む幼竜の歌声から、宝石で鱗を飾ったからくり竜へと移ろっていく。疎まれ山へ帰った本物の竜が再び窓辺に舞い戻るのは、死神の忍び寄る夜のことだった。
かつて竜騎衆を率い国を守った颯牙は、幾百年の孤独の果てに人の生気を糧とする捕食者へ堕ちた。地所の若い代書人が山中の館でその正体を知り、颯牙は新たな狩場を求めて都へ移り棲むが、老学者と若者たちの手で追い詰められる。
狼に育てられた少年が、忘れられた廃都で出会ったのは、もはや炎さえ吐けぬ老いた竜だった。少年が持ち去った宝玉の鉤棒は人から人へと渡り歩き、血の連鎖を呼ぶ。牙を一度も振るわぬ竜の沈黙が映すのは、人間自身の強欲だった。
南国の商家で愛玩竜として飼われていた琥珀は、ある夜攫われ、極寒の鉱山で橇を引かされる。仲間との縄張り争いと非情な仕打ちの中で野生の血が目覚め、心優しい採掘人・灯至との絆を得るが、その死が竜を人の世から解き放つ。
泉に沈めた黄金の毬を拾ったのは、拳ほどの小さな竜だった。同じ卓で食べ、同じ寝床で眠るという約束を、王女は渋々ながら最後まで守り抜く――呪いを解いたのは、愛の口づけではなかった。
断崖に眠る石竜を日々仰いで育った少年・悟。富と武勇と弁舌と詩を誇る者たちが次々に「竜に見込まれた男」を名乗るが、竜は身じろぎ一つしない。老いた堂守となった悟だけが気づかぬまま、竜の瞼がただ一度、静かに開く――大いなる岩の顔を翻案した寓話。
遺産といえば黒猫一匹きり。途方に暮れる三男坊の前で、猫は長靴と頭陀袋を求めた。狙うは、力ずくで谷を奪った見栄坊な老竜の居城――化けくらべの果てに、竜は自ら鼠に縮んで滅びる。
嵐に難破し小人の国に拘束された若い竜は、敵意なきことを示して信頼を得て、やがて戦の英雄となる。だがその力ゆえに宮廷は竜を恐れ、恩義は猜疑に変わっていく――政治風刺を帯びた追放の物語。
食い詰めた山賊二人が身代金目当てに迷い込んだ幼竜をさらうも、幼竜は火加減も翼の加減も知らぬ暴れん坊で、隠れ家を焼き尽くし夜通し二人を振り回す。疲弊した末に待っていたのは、まさかの逆転劇だった――痛快などたばた誘拐騒動。
代々続く堂守りの務めを継いだ「私」は、同居する老竜の白く濁った隻眼にだけ、説明のつかない恐怖を募らせていく。ある夜ついに手を下し、亡骸を床下に隠すが、静まったはずの鼓動が、なぜか耳の奥で鳴りやまない。
貧しい百姓・弥平は、境界石の彼方に棲む老竜「野守」と、日の出から日没までの飛行で得られる土地の契約を交わす。竜は一片の嘘もつかず、ただ正直に時を告げ続けるだけだったが、際限なく広がる欲だけが、彼を破滅へと導いていく。
翼を封じられて生きるは死より過酷か。宴の口論から始まった賭けにより、若い竜・銀爪は望月の塔に十五年の幽閉を誓う。書物だけを友とした歳月の果てに竜が悟ったのは、かつて誰よりも焦がれていた財宝の、思いのほかの軽さだった。
片脚を食いちぎった白竜への復讐に取り憑かれた老船長と、後戻りできぬまま巻き込まれる乗組員たち。竜はただ追われるがゆえに牙を剥くだけだった――妄執が招く破滅を描く海洋悲劇。
旅の薬師が遺した「百年待ってほしい」という言葉を信じ、陶工の男は塚のそばで老いを止めたまま待ち続けた。嘲笑と裏切りの果て、卵から生まれた竜の瞳に、男は再会の喜びと拭えぬ違和感を同時に見る。夏目漱石『夢十夜』第一夜を翻案した幻想の純愛譚。
五色の珠を持ち帰れば、かぐや姫に会える――大納言に仕える若い舵取りは、主の野心に巻き込まれ竜の棲む海へ漕ぎ出す。竜が試すのは求婚者の勇気か、それとも誰にも見えぬ心の底か。竹取物語・大納言大伴御行の段を翻案した海上の物語。
見栄のために借りた血統証つきの仔竜を夜会の帰り道に失った書記官の若妻は、闇の竜商から法外な値で身代わりを買い、十年の労働でその借金を払い続ける。ようやく明かした真実が突きつけたのは、虚栄が生んだ価値の虚しさだった。
禁忌の秘術で継ぎ接ぎの巨躯に命を吹き込まれた竜は、創造主に一目で見捨てられる。森番の一家をひそかに見守り、独学で得た情愛と、誰にも呼ばれることのない自らの名を胸に抱いたまま、竜は裏切りの果てへと向かう。
強欲な高利貸しのもとへ、クリスマスイブの夜、時を超える古竜が音もなく舞い降りる。裁く言葉も罰もなく、ただ過去と現在と未来を見せるだけの竜の沈黙が、凍りついた心を静かに溶かしていく改心譚。
討たれ石と化し、黄金の鱗を纏ったまま鐘楼に据えられた竜像。渡りに遅れたつばめとの出会いが、生前の強欲を悔いる竜に最後の贖いをもたらす――幸福な王子を翻案した自己犠牲の物語。
荒野の館に伝わる呪竜伝説――先祖が生贄を捧げて封じたという怪物が、当主を次々と死に至らしめているという。名探偵の理詰めの推理が暴くのは、伝説を隠れ蓑にした遺産殺人と、捕らわれ利用された一頭の哀れな竜の姿だった。
詩業への誇りゆえに官を辞した俊才は、屈辱に耐えかね山へ逃げ込み、竜となって姿を変えた。旧友との一夜の再会が、憧れた偉大さの代償と、己を喰った誇りの正体を暴き出す。中島敦『山月記』を翻案した変身の悲劇。
妻の小言から逃れて山をさまよう怠け者の男は、二十年に一度だけ竜の一族が開く無言の宴に迷い込み、盗み飲んだ一杯の酒とともに深い眠りに落ちる。目覚めたとき、彼だけが取り残されていたのは酒でも竜の悪意でもなく、現実の二十年という歳月だった。
壇ノ浦を弔う寺に拾われた盲目の琵琶弾き・弦市は、夜ごと使者に導かれ、亡き幼帝を悼む竜宮の宴で琵琶を弾く。竜に悪意はなく、人の恐れが二人の調べを断ち切る――耳なし芳一を翻案した鎮魂の物語。
人を疑い処刑を繰り返す王に囚われた青年の身代わりに、竜が自ら人質となる。力ずくで鎖を破れるはずの竜は、なぜ動かなかったのか——太宰治『走れメロス』を翻案した信頼の物語。
荒廃した都、羅生門の天井裏に棲む竜は、片腕を斬られ消えた鬼の跡を継いだ者だった。生きるために悪を是とするか——その問いを人格化した竜は、下人の前でただ静かに見届ける。芥川龍之介『羅生門』を翻案した怪異譚。
娯楽のためだけに獣を狩り続けてきた二人の紳士は、深山の霧の奥に現れた洋風料理店で、扉ごとに続く奇妙な「注文」に導かれていく。姿を見せぬ山の主が仕掛けた宴の正体とは。宮沢賢治『注文の多い料理店』を翻案したダークファンタジー。
山あいの村で戯れる幼い竜のいたずらが、少年の病む母から最後の望みを奪った。竜は正体を隠し、夜ごと詫びの獲物を届け続けるが、竜を恐れる村の掟が、真実の伝わる前にその命を奪ってしまう。新美南吉『ごん狐』を翻案した贖罪の物語。
デーン人の宴の広間を襲う怪物グレンデル。その死後、復讐に燃える母が水底の館から立ち上がり、英雄ベーオウルフとの死闘が始まる。
戦いを望まぬ一頭の竜が、丘の洞窟で静かに暮らす日々。騎士との対決を前に、竜は詩と対話で村人の心を動かしていく。
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