物語雳
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·読了目安 15分脇役

竜は跳ばなかった

何にでも賭ける山師ジェドが育て上げた無敗の跳竜スパークは、名も知れぬ旅人の仕掛けた小さな罠であっけなく敗れる。鉱山町の酒場で語られる、人の欲と滑稽さを映すほら話仕立てのユーモア短編。

一 埃っぽい町の頼まれごと

東部の友人アーロンから届いた手紙には、妙な頼みごとが書き添えられていた。曰く、乾いた山間の鉱山町ダスティ・ガルチに、かつて「レヴェレンド・トマス・キャラハン」という禁酒運動の説教師が滞在していたはずだから、その消息を尋ねてきてほしいという。私はちょうど別件の土地台帳の調査でその町に立ち寄る予定だったので、深く考えもせず引き受けた。後になって、これがアーロンお得意の悪戯であり、そんな説教師など初めから存在しないのだと知ることになるのだが、そのときはまだ知る由もなかった。アーロンは昔から、真面目な顔で人を担ぐことに無上の喜びを見出す性分で、今回もまた、遠くにいる私を退屈しのぎに使ったに違いなかった。

ダスティ・ガルチは、名前の通り埃っぽい町だった。数年前に金の含有量の多い鉱脈が見つかって以来、あちこちから流れ着いた男たちがひしめき、乾いた大通りの両側には、傾いた木造の店先が押し合うように並んでいる。荷車が絶え間なく行き交うたび、車輪が土埃を巻き上げ、それが西日を受けて金色の靄のように立ち込めるのを見て、私はいっそこの町全体が、掘り出せなかった鉱石の残り滓でできているのではないかと、埒もないことを考えた。乾いた馬糞と煙草の匂い、遠くの鍛冶場から響く金槌の音、そのすべてが、この土地に根を張ろうとする男たちの、根拠のない楽観をそのまま形にしたような気配を漂わせていた。

この手の鉱山町の常で、酒場だけはやけに立派な作りをしていた。看板には「金の跳竜亭」と書かれ、彩色の剥げかけた竜の絵が、翼を広げた恰好で描かれている。私が探し人の手がかりを求めて足を向けたのも、案の定その一軒だった。扉を押すと、油と煙草と、それに何かの獣の匂いが入り混じった、独特の空気が鼻をついた。天井から吊るされたランタンの灯りが、床に敷かれた古い木箱の影を長く伸ばしていた。

カウンターの奥、樽に腰掛けて居眠りをしていた恰幅のいい老人が、私の声に片目を開けた。サイラスという名のその老人は、この町が金鉱で沸く前から、まだ谷底に川しか流れていなかった頃からここに住み着いているのだという評判だった。頬には深い皺が幾筋も刻まれ、口元にはいつも笑うでも困るでもない、独特の緩みがある。私が礼儀正しく「レヴェレンド・トマス・キャラハンという方をご存知ありませんか」と尋ねると、サイラスは眠たげだった目を、みるみる子供のように輝かせた。

「キャラハン? ああ、キャラハンなら知っとるとも。ジェド・キャラハンのことだろう。あいつぁ、この町始まって以来の、正真正銘の賭け師だったよ。牧師なんぞやっちゃいなかったが、まあ聞いてみるかね」

私は説教師と賭け師の間にある隔たりを指摘しようとしたが、サイラスはすでに樽から降り、私にも椅子を勧めながら、堰を切ったように話し始めていた。膝の上で両手を組み、天井の梁のあたりに視線を漂わせるその姿は、これから語る話をすでに何百回と繰り返してきた者の落ち着きに満ちていた。その口調があまりに滑らかで、しかも心底楽しそうだったので、私は探し人の件はひとまず脇に置き、黙って耳を傾けることにした。

窓の外では、乾いた風が土埃を巻き上げ、遠くの坑道から鈍い発破の音が響いていた。何かの前触れめいたその音を、サイラスは気にする様子もなく、水差しの水を一口含んでから、また話を続けた。

私はといえば、旅の疲れもあって、実のところ探し人の件などどうでもよくなりかけていた。むしろこの老人が、いったいどれほど話を脱線させるつもりなのか、そちらの方に興味が湧いていた。旅先でこの手の長話に付き合わされるのは、決して初めてのことではなかったが、サイラスの語り口には、他の誰とも違う独特の呼吸があった。急ぐでもなく、要点を急いでまとめようともせず、ただ思い出すままの順序で、思い出すままの細部を、丁寧に積み重ねていく。私はいつしか懐から手帳を取り出し、この奇妙な男の話を書き留め始めていた。

二 賭け師ジェドと跳竜スパーク

「ジェド・キャラハンってのはな」とサイラスは言った。「何にでも賭ける男だった。二匹の鳥がどっちが先に垣根から飛び立つか、教会の集まりに何人来るか、隣の犬が生きるか死ぬか——賭ける材料さえあれば、ジェドはどちらの側にでも金を張った。相手が乗ってこなければ、自分から双方の側に賭けて、あとは運まかせにするような男だったよ。噂じゃあ、雨の日にどの雫が先に窓枠を伝い落ちるかにまで、真剣な顔で銀貨を積んだこともあったそうだ。誰かがそれを馬鹿げていると笑うと、ジェドは決まって『賭け事に馬鹿げてるも利口もあるか、ただ勝つか負けるかだけだ』と言い返していたよ」

そんなジェドがある年の春、崩れかけた坑道の脇で、親とはぐれたらしい仔の跳竜を拾った。掌に乗るほど小さく、灰色がかった鱗はところどころ傷だらけで、震えながら岩陰にうずくまっていたという。誰の目にも育つとは思えない有様だったが、ジェドはその仔竜の後ろ足の異様な太さと、跳ねる拍子の妙な粘りに目を留めた。周囲の男たちは、そんな痩せこけた竜など持ち帰っても薪の足しにもならんと笑ったが、ジェドは意に介さず、上着の内側に仔竜を包んで持ち帰った。

「あいつは賭け事にかけちゃ抜け目がなかったが、竜を見る目もまた大したもんだった。三月かけて、その仔竜に飛び方だけを教え込んだのさ。朝は湿った岩場で助走を、昼は輪をくぐる稽古を、夜は焚き火の傍らで、跳ねろと言えば跳ね、待てと言えば待つよう、根気よく仕込んでいった。餌をやるときも、必ず少し高い岩の上に置いて、竜自身に跳び上がって取りに来させたそうだ。そのうち、庭先で虫を追うだけでも、他の竜より頭一つ分は高く跳び上がるようになったよ」

ジェドはその竜を「スパーク」と名付けた。飛び立つ瞬間、灰色の鱗の縁が陽を弾いて火花のように光るからだ、とサイラスは説明した。私はその名付けの由来に、思わず頷いてしまった。スパークは人懐こく、ジェドの肩によじ登っては耳元で低く喉を鳴らす仕草を好んだ。餌の時間になると籠の格子を鼻先で叩き、ジェドの足音を誰よりも早く聞き分けた。町の子供たちが物珍しさに集まってくると、スパークは得意げに小さな跳躍を繰り返して見せ、その度に歓声が上がった。子供の一人が輪っかを掲げると、律儀にそれをくぐり抜けてみせる芸まで、いつの間にか身につけていたという。

ジェドが酒場で管を巻いている間も、スパークはカウンターの隅に置かれた籠の中でおとなしく丸くなり、時折首をもたげては主人の姿を目で追っていたという。誰かがふざけて籠を揺すろうものなら、ジェドは真顔で「その竜は俺の商売道具だ、丁寧に扱え」と凄んで見せた。もっとも、その言い草とは裏腹に、ジェドがスパークを本当に商売の道具としか見ていないと信じる者は、この町には一人もいなかった。

「変な話だが」とサイラスは声を低めた。「ジェドはあの竜のことになると、賭け金の計算より先に、腹が減っていないかを気にするような男だったんだ。他人には信じてもらえんがね。冬場に食い物が乏しくなったときも、ジェドは自分の分の干し肉を割いて、スパークの籠に押し込んでいたのを、俺はこの目で見たことがある。誰かがそれを指摘すると、決まって『こいつが腹を空かせてちゃ、明日の稼ぎに響くだろうが』と、素っ気なく言い訳をしていたよ」

そのくだりを語るサイラスの目元が、ふっと和らいだのを私は見逃さなかった。おそらくこの町の誰もが、ジェドの強欲さと同じくらい、あの竜への情の深さを知っていたのだろう。

もっとも、当のジェドは、そうした周囲の見方をひどく照れくさがった。誰かが「お前は結局、あの竜が可愛くて仕方ないんだろう」とからかうと、決まって顔を赤くして「馬鹿を言うな、こいつは俺の稼ぎ頭だ、それ以上でも以下でもない」と言い張った。だが、その舌の根も乾かぬうちに、スパークが少しでもくしゃみをすれば血相を変えて医者代わりの薬草売りを呼びに走るのだから、誰の目にも本音は明らかだった。サイラスは「ああいう強がりを、この町の連中は陰で『ジェド式の愛情表現』と呼んでいたよ」と付け加え、自分の言葉に自分で笑った。

三 無敗の記録

半年もすると、スパークの跳躍は近隣の鉱山町でも評判になった。当時この一帯では、収穫祭の余興として、竜たちの跳躍距離を競う品評会が盛んに開かれていた。木の輪を等間隔に並べ、竜が跳び越えられた輪の数と着地点の遠さを測って優劣を決める。勝者には賞金と共に、次の祭りまでの間、町の入り口に据えられた記念の旗竿に己の竜の色布を掲げる栄誉が与えられる。それは単なる遊興以上に、この一帯の男たちにとっては、己の目利きを証明する晴れ舞台でもあった。ジェドはその品評会という品評会にスパークを連れて出ては、ことごとく勝ちを収めた。

「賭け金を積めるだけ積んで、負けたところを誰も見たことがなかった。噂を聞きつけたよその竜商人が、腕自慢の竜を連れて挑みに来たこともあったが、スパークの敵じゃなかったよ。あの竜は跳ぶというより、宙に張り付いてから滑るみたいに前へ進むんだ。他の竜が地面に降りる頃には、もう次の輪を越えていたね」

サイラスはそう言うと、片手で宙に弧を描いて見せた。私はその仕草に、思わず笑いを漏らした。

「一度など、ハーロウの谷から来た男が、雄牛ほどもある巨体の跳躍竜を連れてきたことがあった。見物人の誰もが、さすがのスパークも今度ばかりは分が悪いだろうと囁き合ったが、蓋を開けてみりゃ、あの巨体の竜は自分の重みに負けてほとんど跳ねやしなかった。地響きを立てて着地するばかりで、輪の一つも越えられんかったのさ。スパークは涼しい顔で三つも輪をくぐり抜けて、賞金をかっさらったよ。ジェドはそのとき、勝ち金の一部を使って、町の子供たちに飴玉を配って回っていたっけな」

ジェドの賭け好きは、跳躍勝負の場を選ばなかった。ある日など、居合わせた行商人相手に、スパークが目の前の蠅を三匹連続で舌の先で捕まえられるかどうかに銀貨を賭け、まんまと言い当てて笑いを取っている。また別の日には、雨雲がどちらの山の稜線から先に湧くかで賭けをして、これも勝った。牧場主の飼い犬が三本足になった経緯をめぐって、真偽の分からない賭けまで持ちかけたこともあったという。負けたときも「次は勝つ」と笑い飛ばすだけで、意気消沈する姿を見た者はいないというから、たいした肝の据わりようだった。

「あの男の頭の中じゃ、世の中のあらゆる出来事に、勝ち目と負け目の両方がぶら下がって見えてたんだろうな。だが、スパークにだけは、勝ち負けの理屈を超えた信頼を置いていた。誰が何を賭けようと、あの竜だけは裏切らんと信じ切っていたのさ。品評会の前夜になると、ジェドは決まって自分の寝床の脇にスパークの籠を寄せて、明日は俺たちの日だと囁きかけていたそうだ。それを見た者の話じゃ、スパークもまるで分かっているかのように、静かに目を閉じて耳を寄せていたというからな」

こうして無敗の評判が広まるにつれ、ダスティ・ガルチの住人たちは、スパークを単なるジェドの持ち物としてではなく、町そのものの誇りのように扱うようになっていった。祭りの日にスパークの色布が旗竿の上でひらめくのを見上げることは、いつしかこの町の一つの習わしになっていたという。

品評会の朝ともなれば、鉱夫たちは坑道に入る前にわざわざ広場まで足を延ばし、籠の中のスパークに向かって「今日も頼むぞ」と声をかけてから仕事に向かうのが常だった。中には、スパークの勝利にあやかろうと、その日の採掘の首尾までも占うようになった者さえいたという。サイラス自身、若い頃には品評会の日だけ酒場の勘定を弾んだそうで、「あの竜が勝った日の酒はうまかった」と、遠い目をして懐かしんだ。町の誰もが、スパークの跳躍する姿に、自分たちの日々のささやかな幸運を重ねていたのかもしれない。

サイラスがそこまで語ったとき、私はふと、この話がいつ本題の説教師に戻るのか気になり始めていた。だがサイラスの声には、いよいよ熱がこもり始めていた。日はすでに大きく傾き、酒場の窓越しに差し込む光が、カウンターの木目を橙色に染めていた。

四 旅人の賭け

ある秋の午後、見慣れぬ男が「金の跳竜亭」にふらりと現れた。旅装は埃をかぶり、顔には人好きのする笑みを浮かべていたが、その目だけはやけに冷静に店内を見回していたという。噂のスパークを一目見たいと言い出したその旅人に、ジェドは上機嫌で籠を持ち出し、日頃の芸を見せて回った。輪をくぐらせ、指先に止まらせ、合図一つで肩まで跳び上がらせる。見物人たちはいつも通りに沸いたが、旅人だけは腕組みをしたまま、静かに眺めていた。

「見事な跳竜だ」と旅人はやがて感心したふうに言った。「だが正直なところ、私にはただ人に慣れた竜が、大げさに褒められているようにしか見えんな。跳躍そのものは、さして特別なものとも思えん」

ジェドの顔色が変わった。それは、この男が最も嫌う類いの挑発だった。周囲の男たちも、思わず息を呑んで二人を見比べたという。

「なら賭けるか」ジェドは低い声で言った。「この竜より高く跳べる竜を連れてくれば、有り金全部くれてやる。跳べなかったら、お前がそっちの分を出すんだ。四十ドル、それでどうだ」

旅人は少し考える素振りを見せてから、「あいにく手元に竜を連れていないが、比べる相手さえいれば受けて立とう」と応じた。その言い草に、ジェドはむしろ好都合とばかりに膝を叩いた。

「なら俺が探してきてやる。町外れの知人の所に、そこそこ跳べる痩せ竜がいたはずだ。少し待ってろ」

ジェドは二つ返事で、比較用の竜を探しに駆け出した。息を切らして駆けていく背中を、見物人たちは笑い混じりに見送った。旅人はその間、店の隅の椅子に腰掛け、頬杖をついてスパークの入った籠を興味深そうに覗き込んでいたという。

「あとで分かったことだが」とサイラスは声を潜めた。「あの旅人、ジェドの姿が見えなくなるなり、懐から小さな革袋を取り出して、籠の隙間からスパークの口に、丸い小石を一つ、また一つと押し込んでいったのさ。手つきは慣れたもので、まるで何度も同じことをやってきたみたいだったと、後で店の小僧が青い顔で証言していたよ。スパークは大人しい竜だったから、されるがままだったんだろう。腹の底に石が溜まっていくのも、ただの餌かと思っていたのかもしれん。旅人は籠の蓋を元通りに閉じると、何食わぬ顔でまた頬杖をつき直したというから、大した度胸だよ」

やがて息を切らして戻ってきたジェドは、見劣りのする痩せた竜を借りてきたことを詫びながらも、勝負を急いだ。輪を大通りの端に並べ、二匹の竜を土の上に並べて構えさせる。見物人たちが二重、三重に取り巻き、誰かが景気づけに指笛を鳴らした。ジェドは自信たっぷりにスパークの背を軽く叩き、いつもの合図を出した。

相手の竜はよろよろと二つ先の輪までしか進まなかった。だがスパークは合図と共に力み、後ろ足を蹴り出した——にもかかわらず、その場でわずかに身をよじっただけで、ぴくりとも跳び上がらなかった。見物人たちの間にどよめきが走り、ジェドは自分の目を疑うように何度も瞬きを繰り返した。

「化け物でも見るような顔をしとったよ、ジェドは。何度合図を出しても、スパークはただ地面に爪を立てて踏ん張るばかりで、いつもの跳躍とはまるで違う、鈍い呻き声を上げるだけだった。あんなに慌てふためいたジェドを見たのは、後にも先にもあのときだけだったな。しまいには『どうしたんだ、お前らしくもない』と、竜に向かって半泣きで語りかけていたよ」

固まったジェドを尻目に、旅人は淡々と賭け金を数え、上着の内側にしまい込むと、丁寧に礼を言って店を出ていった。呆然としていたジェドが、その背をようやく追いかけたときには、すでに通りに旅人の姿はどこにもなかったという。埃の舞う大通りの先を、ジェドはしばらく呆けたように見つめ続けていたそうだ。

見物人たちの間からも、戸惑いのざわめきが収まらなかった。誰もが無敗のスパークを信じて疑わなかっただけに、目の前で起きたことがにわかには呑み込めなかったのだ。中には「あの竜、どこか具合でも悪かったんじゃないか」と気遣う声もあれば、「ジェドもとうとう運に見放されたか」と面白がる声もあった。だが、いずれの声も、旅人の消えた方角までは追いかけなかった。誰一人として、あの男の顔をまともに思い出せなかったのだから、無理もない話だった。ジェドは負けた金のことよりも、いつもの跳躍を見せられなかったスパークの様子の方が気にかかる様子で、しゃがみ込んで籠を覗き込んだまま、しばらく動かなかったという。

五 消えた旅人、残った竜

ジェドが震える手でスパークを籠から抱き上げると、いつもより明らかに重い。訝しく思って腹のあたりを撫でると、指先に硬いものが触れた。口を開かせてみれば、喉の奥から小石がいくつも、からからと乾いた音を立てて転がり出てきたという。

「そこでようやく、してやられたと気づいたわけだ。だが後の祭りさ。旅人の顔も、名も、行き先も、誰一人ろくに覚えちゃいなかった。ジェドはひと月ばかり、街道という街道を訪ね歩いて、あの男を探し回ったそうだが、とうとう見つからずじまいだった。しまいには、隣町の宿場役人にまで人相書きを頼み込んでいたが、それも実を結ばなかったよ。あの男はまるで、初めからこの世に存在しなかったみたいに、きれいさっぱり消えちまったのさ」

サイラスはそこで一息つき、カウンターの向こうから水差しを取り出して、自分のグラスに注いだ。私はといえば、探していたはずの説教師の消息よりも、その後のスパークがどうなったのかの方が、よほど気になっていた。尋ねると、サイラスは目を細めて笑った。

「あの竜に罪はなかろう。ジェドもすぐにそれを悟ったよ。負けた金は取り返せなかったが、スパークはあれからも変わらず、ジェドの肩に乗って喉を鳴らしていた。石を詰められたことも、負けたことも、竜自身には端から関わりのないことだったんだろうな。ただ、跳べと言われれば跳び、跳べなければ跳べないというだけの、正直な生き物だったのさ。ジェドはその後もあちこちで賭け事を続けたが、スパークを賭けの道具にすることだけは、二度としなかったと聞いている。品評会に連れて出ても、勝っても負けても、必ず真っ先にスパークの無事を確かめるようになったそうだ」

その言葉に、私はなぜだか救われたような心地がした。人の欲や見栄がどれほど拗れようと、あの竜だけは、始めから終わりまで無邪気なままだったのだ。窓の外はすでに夕闇に包まれ、酒場の中には数本の蝋燭の灯りだけが残っていた。カウンターの木目に落ちる灯りの色も、いつしか橙から深い赤へと変わっていた。

サイラスはさらに、ジェドがその後どうなったかについても語ってくれた。金を失った悔しさは月日と共に薄れていったが、あの敗北の一件は、ジェドの賭けの流儀を少しだけ変えたのだという。それまでのように誰彼構わず勝負を仕掛けることは減り、代わりに、勝負の相手をじっくり値踏みしてから金を張るようになった。「あの旅人のおかげで、少しは慎重さってものを覚えたのかもしれんな」とサイラスは笑った。それでもスパークを連れて品評会に出ることだけはやめず、勝てば町中で祝杯を挙げ、負ければ負けたで、ふてくされた顔をしながらも竜の体を隅々まで撫でて労っていたそうだ。年老いてからのジェドは、若い衆に竜の育て方を教えて回るのを何よりの楽しみにしていたと、サイラスは懐かしそうに付け加えた。

「それで、レヴェレンド・トマス・キャラハンという方の消息なんですが」

私が本題を切り出すと、サイラスは初めてそんな名を聞いたとでも言いたげに、きょとんとした顔をした。それから何かを思い出したように、私の袖を掴んだ。

「ああ、そういえば、隻眼の牛を飼っていた男の話をしたかね。あれもまた、ジェドに負けず劣らずの賭け師でな、その牛ときたら片方の目でしか物を見られんくせに……」

私は丁重に礼を言うと、次の話が始まる前に、逃げるように酒場を後にした。乾いた大通りに出ると、夕暮れの風がまた土埃を巻き上げていた。結局、探していた説教師の消息は分からずじまいだったが、遠い鉱山町の片隅で、今も誰かの肩の上で喉を鳴らしているだろう一匹の竜のことを思うと、それもまた悪くない土産話だという気がしてならなかった。振り返ると、酒場の看板に描かれた色褪せた竜が、夕闇の中で、なお翼を広げたままの姿でこちらを見下ろしていた。

本作はマーク・トウェイン(Mark Twain)の『The Celebrated Jumping Frog of Calaveras County』を参考にした作品です。原典